「あの日のInstagram」 この数日、ほとんど何も食べていない。 凍える僕は、いつものようにあてもなく、ひたすら歩いていた。 体が冷えてしまうという理由もあるが、立ち止まってしまうとどうしようもない寂しさに襲われてしまうからだ。 2025年。メトロシティOSAKA。 すべてをなくしてしまった。数少ない親友も、仕事も、愛する家族も、そしてその日生きていくためのお金さえも失った僕は、青春時代を過ごした関西に流れ着いていた。 街は、明るくきらびやかな光が溢れ、ジングルベルのメロディが流れる。幸せそうな上級市民は一様にiPhoneで過剰な表情を作り、スナップを撮る。Instagram用だろう。その笑顔が僕にはまぶしすぎる。 ふいに、心に漆黒の孤独が広がる。喧噪から逃げた。「きったねぇオヤジだな!あっち行け!」「下等民!気持ち悪い!」 僕は、衰弱している。身体の節々が悲鳴を上げる。誰もいない、誰にも会わない場所へ…!自然と、足は夜の海へ向かった。 潮騒の香り、遠くに工場群、海遊館の観覧車。 海が、近い。 このまま。このまま、死んでしまおうか。海が、死んでもいいよ。と言ってくれている気がした。何も持たず、失えるものはすべて失った僕に未来は。 ふと、見上げると、見たことがある建物の前に、僕はいた。 あぁ、ここは…。 CASO。 真っ暗に静まり返った建物、CASO。 忘れもしない、10年前に「IGersJP最強展大阪」という、展示会が行われた、世界文化遺産の伝説のギャラリーだ。 「…Instagram…か。」 社会現象になったInstagram。それは2016年。巨大な文化となって世界を飲み込んだ。外食産業、レジャー、ファッション、施設、通信、あらゆるものが「インスタ映えするか否か」で判断された。ペットでさえも柴犬のみになった。フォロワー数至上主義の世の中へ移行し、明確な差別が生まれた。 初代世界大統領に就いた「@instagramenzo 」が「フォロワー数で階級、社会的な地位を決定する!」と宣言したのだ(2018年、反インスタ派の活動家に急襲され死亡)。 そして、2代目を受け継いだ「#ふさふさ部 」リーダーでもあった元仲間@soraky 政権によってそれはより加速し、より過激さを増した。陰の絶対権力者、大統領夫人の@sorayuchi による「美しくなければ死ねばいいじゃない」の一言は「#ハナ乙女」の花びらを「血」に変えた。 さらに、一度は同士として作品を撮り続けた元仲間「女帝; @wacamera 」が総裁の、「一眼、フィルムなどのカメラユーザー派「金の日食」と、iPhoneでのみ作品をアップし続ける派閥「KINGこと@koichi1717 」率いる「ネオ」の対立が生まれ、世界は戦争の時代へと突入した。情報はすべてwebstaのトップ「@jmworks ジョー氏」によって厳しく管理された。 「派閥とか思想とかどっちでも良いとですばい!」と声をあげ、風刺のミニチュア写真をアップした薩摩国元首@tanaka_tatsuya は即座に闇警察に逮捕され、ハナ乙女となって散った。乙女じゃなくて男だけど。 あのころの、仲間は、僕にはもう、いない。 どうして。どうしてこんな時代になってしまったんだ。 ギャラリー向かいの階段に座り、僕は、声を上げて泣いた。 どれくらい経ったろうか、僕ははっと目覚めた。 どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ。やれやれ、今更昔話なんて。 ふと、顔を上げると… 「CASOに、灯りが点いている…」 階段を立った僕が目にした光景は、外まで溢れ出ていたギャラリーのお客さんたちだった。 楽しそうにカメラの談義をする人、スマホを見ている人、撮影をしている人、いまの時代では見られない表情。どこか懐かしい、昔の光景だった。 現実を理解していない僕に向かって入り口から声をかける人がいた。 「halnoさーん!早く早く!halnoさんに会いたいって人が中でいっぱい待ってますよー!」 僕は目を疑った。「大統領夫人…(しかも、恐ろしく若い…)」「なに大統領夫人って?ほら、早く来てくださいよ!もう、サボってばっかりなんですから!」…間違いない…今では見る影もないけれど、この方は「鉄の死刑執行人」、美しかった頃のsorayuchi さまだ… なかば強引に手を取られ、二人で中へ走った。混乱しながら中へ入ると、壁一面に写真が貼られていた。懐かしい光景、高揚感が伝わる作品群。作品一つ一つが、輝いていた。 まるで自由な時代の、わくわくでしかなかった頃のInstagramではないか。 呆然と立ち尽くす僕に、たくさんの人たちが声をかけてくる。 「あ、halnoさんですね!」「はじめまして!いつも見ています!」「後でで良いので一緒に飛んでくれませんか!?」下等市民のこの僕に。 「人気者ですね、halnoさん( ●´◡`● )。」sorayuchiさまがチャーミングに微笑む。この笑顔に昔はよく癒されたものだ。これはいったいどういうことだろう。まるで2015年暮れの…

halnoさん(@halno)が投稿した動画 -

halnoのインスタグラム(halno) - 12月21日 19時46分


「あの日のInstagram」

この数日、ほとんど何も食べていない。
凍える僕は、いつものようにあてもなく、ひたすら歩いていた。
体が冷えてしまうという理由もあるが、立ち止まってしまうとどうしようもない寂しさに襲われてしまうからだ。
2025年。メトロシティOSAKA。
すべてをなくしてしまった。数少ない親友も、仕事も、愛する家族も、そしてその日生きていくためのお金さえも失った僕は、青春時代を過ごした関西に流れ着いていた。
街は、明るくきらびやかな光が溢れ、ジングルベルのメロディが流れる。幸せそうな上級市民は一様にiPhoneで過剰な表情を作り、スナップを撮る。Instagram用だろう。その笑顔が僕にはまぶしすぎる。
ふいに、心に漆黒の孤独が広がる。喧噪から逃げた。「きったねぇオヤジだな!あっち行け!」「下等民!気持ち悪い!」
僕は、衰弱している。身体の節々が悲鳴を上げる。誰もいない、誰にも会わない場所へ…!自然と、足は夜の海へ向かった。
潮騒の香り、遠くに工場群、海遊館の観覧車。
海が、近い。
このまま。このまま、死んでしまおうか。海が、死んでもいいよ。と言ってくれている気がした。何も持たず、失えるものはすべて失った僕に未来は。
ふと、見上げると、見たことがある建物の前に、僕はいた。

あぁ、ここは…。
CASO。

真っ暗に静まり返った建物、CASO。
忘れもしない、10年前に「IGersJP最強展大阪」という、展示会が行われた、世界文化遺産の伝説のギャラリーだ。
「…Instagram…か。」
社会現象になったInstagram。それは2016年。巨大な文化となって世界を飲み込んだ。外食産業、レジャー、ファッション、施設、通信、あらゆるものが「インスタ映えするか否か」で判断された。ペットでさえも柴犬のみになった。フォロワー数至上主義の世の中へ移行し、明確な差別が生まれた。
初代世界大統領に就いた「@instagramenzo 」が「フォロワー数で階級、社会的な地位を決定する!」と宣言したのだ(2018年、反インスタ派の活動家に急襲され死亡)。
そして、2代目を受け継いだ「#ふさふさ部 」リーダーでもあった元仲間@Kobe Japan Water art 政権によってそれはより加速し、より過激さを増した。陰の絶対権力者、大統領夫人の@sorayuchi による「美しくなければ死ねばいいじゃない」の一言は「#ハナ乙女」の花びらを「血」に変えた。
さらに、一度は同士として作品を撮り続けた元仲間「女帝; @wacamera 」が総裁の、「一眼、フィルムなどのカメラユーザー派「金の日食」と、iPhoneでのみ作品をアップし続ける派閥「KINGこと@Koichi 」率いる「ネオ」の対立が生まれ、世界は戦争の時代へと突入した。情報はすべてwebstaのトップ「@Joe Mio / ミオジョウ ジョー氏」によって厳しく管理された。
「派閥とか思想とかどっちでも良いとですばい!」と声をあげ、風刺のミニチュア写真をアップした薩摩国元首@田中達也 は即座に闇警察に逮捕され、ハナ乙女となって散った。乙女じゃなくて男だけど。

あのころの、仲間は、僕にはもう、いない。
どうして。どうしてこんな時代になってしまったんだ。
ギャラリー向かいの階段に座り、僕は、声を上げて泣いた。
どれくらい経ったろうか、僕ははっと目覚めた。
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ。やれやれ、今更昔話なんて。
ふと、顔を上げると…
「CASOに、灯りが点いている…」
階段を立った僕が目にした光景は、外まで溢れ出ていたギャラリーのお客さんたちだった。
楽しそうにカメラの談義をする人、スマホを見ている人、撮影をしている人、いまの時代では見られない表情。どこか懐かしい、昔の光景だった。
現実を理解していない僕に向かって入り口から声をかける人がいた。
「halnoさーん!早く早く!halnoさんに会いたいって人が中でいっぱい待ってますよー!」
僕は目を疑った。「大統領夫人…(しかも、恐ろしく若い…)」「なに大統領夫人って?ほら、早く来てくださいよ!もう、サボってばっかりなんですから!」…間違いない…今では見る影もないけれど、この方は「鉄の死刑執行人」、美しかった頃のsorayuchi さまだ…

なかば強引に手を取られ、二人で中へ走った。混乱しながら中へ入ると、壁一面に写真が貼られていた。懐かしい光景、高揚感が伝わる作品群。作品一つ一つが、輝いていた。
まるで自由な時代の、わくわくでしかなかった頃のInstagramではないか。
呆然と立ち尽くす僕に、たくさんの人たちが声をかけてくる。
「あ、halnoさんですね!」「はじめまして!いつも見ています!」「後でで良いので一緒に飛んでくれませんか!?」下等市民のこの僕に。
「人気者ですね、halnoさん( ●´◡`● )。」sorayuchiさまがチャーミングに微笑む。この笑顔に昔はよく癒されたものだ。これはいったいどういうことだろう。まるで2015年暮れの…


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2015/12/21

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