猫沢エミのインスタグラム(necozawaemi) - 2月17日 23時21分
話せば長くなる。
新宿のDUGでハービー・ハンコックのアルバムを一枚聴いた後、帰路についた。心はそれでも完膚なきまでに疲れ切っていて、なにをどう癒やしにするか考えあぐねながら、浜町の路地を歩いていたら、ふと、素晴らしい意匠のお店を見つけた。一見さんおとこわり的なお店にひとりで入るのが得意ではないのに、気がつけば、蜻蛉の扉飾りの美しい引き戸をガラガラと開けている自分がいた。一見で、深いエネルギーのある主人が現れて『どうぞ。』と、稀に見る素晴らしい笑顔で迎えて下さった。そうして、あの世とこの世の境目の夜が始まった。
私はここへ住んで15年になるけれど、なぜ隅田川淵に住むのかと言えば、生が強すぎて日々捨てねばならぬ心の代謝が激しいからなのだと思う。川に流してもらわねば、あっという間にタナトスへ引き寄せられてしまう。爛々と生きる人は爛々と死にも愛されるから。
主人は、聴けばその昔、あるマンションの一室に、それこそあの世のような知る人ぞ知る料亭を構えていて、各界のトップアーティストを食で癒やし続けたそのお人でした。
さもありなん。私が蜻蛉の引き戸を開けずにはおられなかった理由がすぐにわかった。そうして夜が更けていった。なにも頼まずとも、こちらの欲しいものがするすると出てくる。ここまで呑むつもりもなかったのに、どんどん杯は重なる。気がつけば、すっかりメンテナンスされてしまっていた。これも運命だと言える稀な夜でした。
主人、松井さんに私は卒爾ながら語った。
『ひと昔前は、隅田川の中央区側はこの世、両国橋を渡って回向院のある墨田区側はあの世と呼ばれていました。今日、ここへふらりと入って、なぜ私があの世に暮らし、毎夜一度死に、朝蘇り、現世へ仕事に行くのか。その意味がわかりました。』と。
感性が、受動体が鋭敏であることは、時に厳しい。でもそれは途方もなく豊かであり『開いている』ということなのだ。それをすっかり肯定できる、この世の淵にあるお店を見つけられて、私は今宵とても幸せです。 ◎薬食『お茶の子』
中央区日本橋浜町2-28-6
#東京下町時間 #猫沢銘店
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2017/2/17