北海道テレビ「イチオシ！モーニング」のインスタグラム(htb_ichimoni) - 2月14日 08時39分

「したっけな！」
女心がまるでわかっていない酷い断りようだったが、
その快活な声に、めぐみは憎めないでいる。
むしろそこがまた、ムロ君のチャーミングな所とさえ思う。

きょうはバレンタインデー。
去年の春から通い始めた市茂荷高校の校門で、
勇気を持って差し出したチョコレートを
きっぱりと断られてから、
めぐみはそのまま家に帰る気分にもなれず、
所在無さげに冬の街をブラブラと歩いた。
「あっ…ムロ君。」
辺りは真っ白な細雪が舞っていたが、遠くからでも、
風に揺れる彼のリーゼントがはっきりと見てとれた。
「おぅ、めぐみ。」
「ムロ君。なにしているの？」
「いや、別に。いま家に帰るとこ。めぐみは？」
「私も家に帰るところ。」
「じゃあ、途中まで一緒に帰る？」
「えっ！？…うん。」
高校入学前、めぐみとムロ君は同じ中学の同級生でもあった。
しかし、同じクラスになったことはない。
２人の交流はほとんど無かったが、
近所に住んでいる事ぐらいは、おたがいに認識していた。
高校や街からの帰路は、同じ公共交通機関を使っている。
とはいえ、このように2人きりで並んで歩くこと自体、
めぐみにとってはじめてのことであった。
「ねぇ、ムロ君。」
めぐみは高鳴る胸を抑えながら、思い切って話しかけた。
「ムロ君は…か、彼女いるの？」
「いや別に、いないよ。」
めぐみの声は緊張で少し震えていたが、
ムロ君は知る由もなく、あいかわらず爽やかに答えた。
「ムロ君の、彼女になれる条件ってなんなの？」
「う～ん…。」
ムロ君は立ち止まり一瞬思考を巡らせたが、すぐに口を開いた。
「顔かな。」
「かっ、かお！？」
めぐみはムロ君の即答ぶりに茫然とした。
この心境になるのは校門での出来事に続き、
きょう２度目である。
「いまカカオって言った？そういえばチョコめっちゃ食ったわ。
カロリー気になるし、やっぱ走って帰ろ！したっけな！」
ムロ君はそういうと、一層吹雪きはじめた街角に消えていく。
「ム、ムロ君っ！……でも１００メートル、一緒に歩けたから、
きょうは良しとするか。」
めぐみは颯爽と走り去るムロ君の背中をぼんやりと眺めながら、
寒い街とは対照的に、心にほんのりとした温もりを感じていた。

みなさんに素敵なバレンタインデーが訪れますように。

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