なおみ「みんな、贅沢よ」泉「贅沢？」なおみ「デパート行って、お母さんが、いろんなこというから、なかなか買い物出来なかったなんていうけど、相談したくても、誰もいなくて、ひとりで買い物しなきゃならない人だっているんですからね」麗子「（戻って来ている）」なおみ「受験受験で、ちゃんとした本が読めないなんていうけど、受験出来るって事が幸せだと思ったことないのかしら？」進「ーー」なおみ「たまに休まなきゃたまらないって貯金局休むけど」加代「ーー」なおみ「それだって親がいるからだと思うわ。一人だったら、仕事なくすの怖くて、そんなズル休み出来ないと思うわ」泉「ーー」なおみ「みんなで自由にしろ、外へ行けっていうけど、一人で外へ出たって、淋しいことの方が多いわ。家にいて、気楽に手伝いたいと思えば、休みなんだから、首つっこまないで、部屋にいろっていうし。淋しくって、意地になって、首つっこみたくなる気持分るかしら？」泉「ーー」基二「ちょっと、ひねくれてるんじゃないかな」なおみ「失礼ですけど中西さんだってそうです」基二「ぼくが？」なおみ「お兄さんが、式に出てくれないって、口惜しそうだけど、お兄さん、ここまで挨拶に来てくれたじゃない。そういう人もいない人間だっているんですからね。私、お嫁に行く時、誰がいるかしら？　誰が髪の毛切ってくれるかしら（と泣く）」泉「そうなの。そういう風に、感じてたの。淋しかったのね」加代「十六ぐらいじゃ、何処へ行っても一人じゃ心細いわよね」伝六「休みだから、ほっといてやろうと思ったんじゃねえか」基二「そうですよ。ぼくはみんな、親切だと思うな。あたり散らしたなおみちゃんが悪いと思うな」麗子「いいのよ（と基二を止める）」基二「いや、多少、人より気持ちが分るんじゃないかと思うんだ」麗子「分るって？」基二「いいそびれてたけどーーぼくも、なおみちゃんと似たような思いをしてるんだ（一同へ）便乗して白状しちゃいますけど」泉「どういうこと？」伝六「白状って、あんた？」基二「いえ。昔の話ですけどーー実は、私は、兄とは腹違いなんです。父とある人との間にうまれた子なんです」麗子「そうなの」基二「すぐひきとられて、本当の母は、なくなりました。ですから籍は、いまの両親の子になっていますが、実際には、母は、私を、はっきり分けへだてしました。兄も、母を真似て、事情を知らぬ前から、私には、冷淡でした。父は、家庭をかえりみない方でしたから、私は、いつも淋しい思いをしていました。言わせてもらえば、なおみちゃんのように、誰もいない人間より、淋しい思いをしたかもしれないんです」麗子「ーー」基二「それで、麗子を、みんなで心配するこのお宅の御家族が、見ていて羨ましくなりました。こんな事をいうと、麗子が怒るかもしれないけど、結婚しようっていう気になったのは、半分、家族のみなさんを、知ったせいもあるんです。お宅のような家庭のあったかさを知りませんでした。兄が式に出ないのは、当然かもしれません。式ぐらいは、出てくれるか、と思っていたんですがーー」泉「そうなの」基二「だから、なおみちゃんの気持は分るつもりなんだ。なおみちゃんが、みんなに当るのは我儘だと思うな」泉「いいのよ」加代「いいのよ、当ったって」基二「あやまった方がいいな」麗子「でもーー」基二「あやまった方がいいよ、なおみちゃん」なおみ「ーー」基二「あたり散らして、ずっと生きて行けるなら、かまわないけどね」なおみ「（ゆっくり立上り）すいませんでした」「いいのよ」「いいんだ」と口々にいう。基二「余計な口出しをしました」伝六「いや。しかし、いいかい？」基二「は？」伝六「これだけ口を出した以上、なおみちゃんの相手も時時してくれよな」泉「ほんとね」基二「そのつもりです」泉「なおみちゃん、じゃんじゃん相談にのってもらいなさい」なおみ「はい」加代「あの、私にも、たまには相談にのって下さいね」伝六「お前はお父さんにすりゃあいいじゃねえか」加代「こっちの方が話せそうだもの」伝六「なに言ってやがる」一同、笑う。ーーさくらの唄全26話 TBS 水曜劇場脚本：山田太一 #book #sakuranouta #songofcherryblossoms #taichiyamada #yamadataichi #coffee #porcelain #cupandsaucer #cupsaucer #handdrawing #okuratouen #cherryblossoms #danke #本 #書籍 #さくらの唄 #山田太一 #作品集 #戯曲 #シナリオ #脚本 #ドラマ #バターブレンドコーヒー #珈琲 #コーヒー #手描き #大倉陶園 #桜 #ダンケ #美輪明宏が中西基二役

astrology_tarotさん(@astrology_tarot)が投稿した動画 - 2018/03/08 01:21:39