平安時代において、天皇をはじめ貴族権門の人びとは、病気にあい、余命がいくばくもないことがわかると、かならず出家した。入道したのである。余命が相当あっても、入道することによって、名利欲・愛欲などに執着しない覚悟をきめた。すくなくとも、そのふりをした。 しかし、人間は、すべての欲望、特に生き延びたいという欲望を断ちきることはできなかった。 自分の豪壮な邸宅を捨てても、権門の人びとはその隣接地に出家入道後住める寺院を造営し、そこに移り住み、これを死後の菩提寺ともしたのである。積善寺も法成寺もその例である。 だが、諸行はしょせん無常である。兼家の男児の中で、もっとも器量がすぐれ、運の強かった道長の造営した、それこそ「つくりみがかせたまふ」といわれた法成寺の遺蹟でさえもいまは、その名残すら見られないのである。人間関係において、一条天皇の叔父であり、後一条・後朱雀・後冷泉各帝の外祖父になるなど人臣として栄華を極めた彼の生活も、いまは『枕冊子』『紫式部日記』『御堂関白記』その他に記録があるだけである。 中の関白家は、御堂関白家とくらべると、道隆と道長の器量の相違もさることながら、その逝去の年齢が道隆四十三歳、道長六十二歳という、二十年の大きな開きがあることとそのそれぞれの長女定子皇后(九七六〜一〇〇〇)の崩御が二十五歳(二十四歳説もある)であるのに対して上東門院彰子(九八八〜一〇七四)八十七歳という夭寿の大きい相違も運命といわれればそれまでであるが、両家の家運の隆昌没落に大きな影響を与えていることは否めない。 「運が強い」とか、「寿命が長い」とかいわれても、それはせいぜい五十年か、六十年の差である。権門はやがてほろびてゆく。すくなくとも、弱って行く。その権門の没落への挽歌、ほろびゆくものへの挽歌が、『枕冊子』ほど明るく、生き生きと、「をかし」の精神で叙せられ、描かれ、特異な様式の文学作品として不滅の光を放っているものは、他にない。 京洛の地にいま地下鉄の工事が進められている。京の土壌に培われた、王朝文学の精神の中で、物語でなく、日記でなく、それらを含めた「点」の文学としての『枕冊子』には涙をそそる悲しい記事はない。陰影とか、かげりとかがないかわりに、明るく、直截的に訴える文がある。 平安の古都にどんなに高層建築物が林立しようとも、また、縦横に地下鉄が走ろうとも、人が人を愛する心は変わらない。 #book #coffee #cupandsaucer #noritake #bonechina #porcelain #essay #thepillowbook #danke #書籍 #本 #エッセイ #随筆 #枕冊子 #枕草子 #珈琲 #コーヒー #バターブレンドコーヒー #ノリタケ #ボーンチャイナ #磁器

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桂のインスタグラム(astrology_tarot) - 4月9日 23時37分


平安時代において、天皇をはじめ貴族権門の人びとは、病気にあい、余命がいくばくもないことがわかると、かならず出家した。入道したのである。余命が相当あっても、入道することによって、名利欲・愛欲などに執着しない覚悟をきめた。すくなくとも、そのふりをした。
しかし、人間は、すべての欲望、特に生き延びたいという欲望を断ちきることはできなかった。
自分の豪壮な邸宅を捨てても、権門の人びとはその隣接地に出家入道後住める寺院を造営し、そこに移り住み、これを死後の菩提寺ともしたのである。積善寺も法成寺もその例である。
だが、諸行はしょせん無常である。兼家の男児の中で、もっとも器量がすぐれ、運の強かった道長の造営した、それこそ「つくりみがかせたまふ」といわれた法成寺の遺蹟でさえもいまは、その名残すら見られないのである。人間関係において、一条天皇の叔父であり、後一条・後朱雀・後冷泉各帝の外祖父になるなど人臣として栄華を極めた彼の生活も、いまは『枕冊子』『紫式部日記』『御堂関白記』その他に記録があるだけである。
中の関白家は、御堂関白家とくらべると、道隆と道長の器量の相違もさることながら、その逝去の年齢が道隆四十三歳、道長六十二歳という、二十年の大きな開きがあることとそのそれぞれの長女定子皇后(九七六〜一〇〇〇)の崩御が二十五歳(二十四歳説もある)であるのに対して上東門院彰子(九八八〜一〇七四)八十七歳という夭寿の大きい相違も運命といわれればそれまでであるが、両家の家運の隆昌没落に大きな影響を与えていることは否めない。
「運が強い」とか、「寿命が長い」とかいわれても、それはせいぜい五十年か、六十年の差である。権門はやがてほろびてゆく。すくなくとも、弱って行く。その権門の没落への挽歌、ほろびゆくものへの挽歌が、『枕冊子』ほど明るく、生き生きと、「をかし」の精神で叙せられ、描かれ、特異な様式の文学作品として不滅の光を放っているものは、他にない。
京洛の地にいま地下鉄の工事が進められている。京の土壌に培われた、王朝文学の精神の中で、物語でなく、日記でなく、それらを含めた「点」の文学としての『枕冊子』には涙をそそる悲しい記事はない。陰影とか、かげりとかがないかわりに、明るく、直截的に訴える文がある。
平安の古都にどんなに高層建築物が林立しようとも、また、縦横に地下鉄が走ろうとも、人が人を愛する心は変わらない。

#book #coffee #cupandsaucer #noritake #bonechina #porcelain #essay #thepillowbook #danke #書籍 #本 #エッセイ #随筆 #枕冊子 #枕草子 #珈琲 #コーヒー #バターブレンドコーヒー #ノリタケ #ボーンチャイナ #磁器


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2018/4/9

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