アップル社のイベント、WWDC基調講演。2時間半に及ぶ発表のすべてはTim Cook CEOが見せた1枚のスライド「顧客がすべての中心」に集約されています。  当然のことのように思えて、他のIT企業には「一見便利に見える」機能の提供はできても、Web世代のIT企業は利益構造上、本質的な顧客中心は難しいのが現在のIT業界。  そんな中、アップルは普通の企業だったらビジネス的に絶対に間違っていると思えることばかりを次から次へと発表したのが大変、印象に残りました(それでいて株価があがっているあたり、アップルの株主がそうしたことへの理解があることの証拠でしょう)。 詳細は、まもなく掲載されるであろうITmedia PC USERのレポート記事まで待ってもらうとして、記事では省いた、いわゆるIT媒体向けではない話を食前酒(アペリティフ)代わりにこちらへ…  コンピューータの誕生は第二次世界大戦中。米国が世界初と謳う弾道計算用のコンピューター、ENIAC(私は英国の方が先説を応援しています)も第二次世界大戦の終結直後にしており、昔の大型コンピューターは主に政府機関が軍事目的や国民の管理などの目的で生み出したものでした。バットマンなどのSFやヒーローものの映画を除けば、こうした大型コンピューターは東西冷戦時代、国民の自由を奪う悪の象徴というイメージも強かった時代だったようです。  そんな中、1960年代以降、そうした流れへの対抗軸として広がったのがカウンターカルチャー(対抗文化)の流れで、スティーブ・ジョブズにも大きな影響を与えたスチュワート・ブランド氏(実は来週、サンフランシスコで講演。聞きたかった!)らを中心に据えたヒッピー文化などもそこから生まれてきます。そしてそうしたカウンターカルチャーの流れの中から、政府の大型コンピューターへの対抗軸として、個々人の能力を伸ばし、自由を与え対抗できるための道具として広がってきたのが個人のためのコンピューター(パーソナルコンピューター)で、もともとヒッピー文化の中に身をおいていたスティーブ・ジョブズが生み出したアップル社は、もともとはそうした人々の自由を解き放つ側の会社で、その会社が生み出したパーソナルコンピューターは、企業の奴隷を作る代わりに、新たな文化を生み出す世界中のクリエイター達に力を与えてきました。  Webに代表されるサイバー空間も、もともとはそうした文脈から生まれてきたものです。  しかし、気がつけばIT業界は、儲かるビジネスに変わり、必ずしもそうした自由の精神を引き継がないビジネスマンにとっても重要な市場になっていきました。  やがて、サイバー空間は効率よくグローバル企業で資本を集めるための道具としての側面を強くして、その流れを加速するべく、政府ではなく、裕福な一部の企業が個人の情報を集め、管理し、利益拡大のための道具として使い始める時代に移り変わっていきます。 「それによって便利なサービスが利用できるのだから、それでいいじゃないか」と言う人も大勢います。  でも、それで本当にいいのか?そもそも、我々にはそこまでの使いきれないほどの「便利」が本当に必要なのでしょうか?  これまで世界中の人々が、シリコンバレーから降ってくる「押し付けられたITの常識」にただ従って、振り回される一方でしたが、いよいよ世の中では人々の不満が爆発しつつあります。  そんな中、先月、EUで施行されたGDPRは、「IT社会のルール作り」はシリコンバレーの外からでも行えるのだということを世界に知らしめました。  気がつけば、他にも中国や、シンガポールなど、シリコンバレーへの対抗軸となるIT文化を発信し始めた国が続々と登場しています。  先月のVIVA TECHNOLOGY基調講演で「Technology for Good(善良を目指すテクノロジー)」宣言をしたエマニュエル・マクロン大統領のフランスに持ち、この数年間、シリコンバレー発とは一味異なる「LA FRENCH TECH」を大々的にアピールしているフランスは、まさに対シリコンバレーの旗手と言えましょう。一方で、グーグル会長のエリック・シュミットに「21世紀のルネサンスはベルリンから始まる」と言わしめ、ITの背後にある文化について語れる数少ない日本人の語り部、武邑光裕氏が移住を決めたベルリンも無視できないシリコンバレーへの対抗軸の1つです。  そんな中、シリコンバレーの中にある老舗企業でありながら、どちらかというと個人の自由を守る側についている数少ない企業が、アップルではないかと私は思っています。  何年か前、FBIによるテロ容疑者の調査にすら反骨心を見せたプライバシー情報を守った姿勢もその表れの一つでしょう。  今回、そんなアップルがどんな形で、自由のための戦いに挑んだかは、よければITmedia PC USERの記事を楽しむにしてもらえればと思います。 @ San Jose, California

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林信行のインスタグラム(nobihaya) - 6月5日 23時51分


アップル社のイベント、WWDC基調講演。2時間半に及ぶ発表のすべてはTim Cook CEOが見せた1枚のスライド「顧客がすべての中心」に集約されています。  当然のことのように思えて、他のIT企業には「一見便利に見える」機能の提供はできても、Web世代のIT企業は利益構造上、本質的な顧客中心は難しいのが現在のIT業界。  そんな中、アップルは普通の企業だったらビジネス的に絶対に間違っていると思えることばかりを次から次へと発表したのが大変、印象に残りました(それでいて株価があがっているあたり、アップルの株主がそうしたことへの理解があることの証拠でしょう)。 詳細は、まもなく掲載されるであろうITmedia PC USERのレポート記事まで待ってもらうとして、記事では省いた、いわゆるIT媒体向けではない話を食前酒(アペリティフ)代わりにこちらへ…  コンピューータの誕生は第二次世界大戦中。米国が世界初と謳う弾道計算用のコンピューター、ENIAC(私は英国の方が先説を応援しています)も第二次世界大戦の終結直後にしており、昔の大型コンピューターは主に政府機関が軍事目的や国民の管理などの目的で生み出したものでした。バットマンなどのSFやヒーローものの映画を除けば、こうした大型コンピューターは東西冷戦時代、国民の自由を奪う悪の象徴というイメージも強かった時代だったようです。
 そんな中、1960年代以降、そうした流れへの対抗軸として広がったのがカウンターカルチャー(対抗文化)の流れで、スティーブ・ジョブズにも大きな影響を与えたスチュワート・ブランド氏(実は来週、サンフランシスコで講演。聞きたかった!)らを中心に据えたヒッピー文化などもそこから生まれてきます。そしてそうしたカウンターカルチャーの流れの中から、政府の大型コンピューターへの対抗軸として、個々人の能力を伸ばし、自由を与え対抗できるための道具として広がってきたのが個人のためのコンピューター(パーソナルコンピューター)で、もともとヒッピー文化の中に身をおいていたスティーブ・ジョブズが生み出したアップル社は、もともとはそうした人々の自由を解き放つ側の会社で、その会社が生み出したパーソナルコンピューターは、企業の奴隷を作る代わりに、新たな文化を生み出す世界中のクリエイター達に力を与えてきました。
 Webに代表されるサイバー空間も、もともとはそうした文脈から生まれてきたものです。
 しかし、気がつけばIT業界は、儲かるビジネスに変わり、必ずしもそうした自由の精神を引き継がないビジネスマンにとっても重要な市場になっていきました。  やがて、サイバー空間は効率よくグローバル企業で資本を集めるための道具としての側面を強くして、その流れを加速するべく、政府ではなく、裕福な一部の企業が個人の情報を集め、管理し、利益拡大のための道具として使い始める時代に移り変わっていきます。 「それによって便利なサービスが利用できるのだから、それでいいじゃないか」と言う人も大勢います。
 でも、それで本当にいいのか?そもそも、我々にはそこまでの使いきれないほどの「便利」が本当に必要なのでしょうか?  これまで世界中の人々が、シリコンバレーから降ってくる「押し付けられたITの常識」にただ従って、振り回される一方でしたが、いよいよ世の中では人々の不満が爆発しつつあります。
 そんな中、先月、EUで施行されたGDPRは、「IT社会のルール作り」はシリコンバレーの外からでも行えるのだということを世界に知らしめました。
 気がつけば、他にも中国や、シンガポールなど、シリコンバレーへの対抗軸となるIT文化を発信し始めた国が続々と登場しています。
 先月のVIVA TECHNOLOGY基調講演で「Technology for Good(善良を目指すテクノロジー)」宣言をしたエマニュエル・マクロン大統領のフランスに持ち、この数年間、シリコンバレー発とは一味異なる「LA FRENCH TECH」を大々的にアピールしているフランスは、まさに対シリコンバレーの旗手と言えましょう。一方で、グーグル会長のエリック・シュミットに「21世紀のルネサンスはベルリンから始まる」と言わしめ、ITの背後にある文化について語れる数少ない日本人の語り部、武邑光裕氏が移住を決めたベルリンも無視できないシリコンバレーへの対抗軸の1つです。  そんな中、シリコンバレーの中にある老舗企業でありながら、どちらかというと個人の自由を守る側についている数少ない企業が、アップルではないかと私は思っています。
 何年か前、FBIによるテロ容疑者の調査にすら反骨心を見せたプライバシー情報を守った姿勢もその表れの一つでしょう。
 今回、そんなアップルがどんな形で、自由のための戦いに挑んだかは、よければITmedia PC USERの記事を楽しむにしてもらえればと思います。 @ San Jose, California


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2018/6/5

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