猫沢エミのインスタグラム(necozawaemi) - 10月12日 16時41分
ボクが伊緒子と出逢ったのは、バスク地方のサン=セバスチャンのレストランで修行に入っていたときだった。
その日はお客さまが大勢いらして、猫の手も借りたい忙しさだったから、ボクが直接お料理をお客さまのテーブルに運んだんだ。そこにいたのが伊緒子だった。
伊緒子は日本の商社に勤めていて、海外駐在猫としてパリに赴任していた。ヨーロッパのキャットフードを買い付けていたんだけど、休みが取れるとフランス中のグルメな街を訪ね歩いてた。美味しいものがわかる、知的な女性だった。
ボクよりたぶんかなり歳上だなと思ったけど、そんなことはどうでもいい魅力が伊緒子にはあった。仕事が終わった後、ふたりで近所のバルに行って、いろんなことを話した。彼女の優しくて懐の深い佇まい…それに品のいい笑い方に、ボクはノックアウトだった。
それから連絡先を交換して、ボクは休みが取れるとパリまで伊緒子に会いに行った。なんどめかのパリのデートの時、「私、病気なのがわかっちゃって…日本に帰らなきゃいけないの」って言った。パリの左岸にあるサン=スュルピス教会前のカフェだった。
目の前が真っ暗になって、言葉を失った。でも、次の瞬間「ボクも一緒に帰るよ」って伊緒子に言ってたんだ。
ボクらが日本に帰ってからたったひと月半で、伊緒子は旅立ってしまった。旅好きの彼女は、きっと自由になって世界中を好きなだけ巡っているとボクは思う。
伊緒子は闘病中、「私が、シェフになるあなたの夢を邪魔した。私なんかと出逢わなければよかったのに」ってずっと言ってた。でも、ボクは絶対にそんなことなかった。伊緒子と出逢うまえのボクは、適当に雌猫をあしらってたけど、心にぽっかりと穴が空いてたから。伊緒子は、その穴にたくさんの愛を置いてって、埋めてくれたんだ。後悔なんかひとつもしていない。
そして、伊緒子が天国へ旅立つとき、ボクの猫手を握りしめて「いつかフランスに戻って、猫として初のニャシュランの星を獲って」って言った。
ボクは今、自分がどうしたいのか? どうすべきなのかを考えているところ。
今日は伊緒子の7回目の月命日だ。
サン=セバスチャンのレストランで伊緒子が美味しいって言ってくれた、バスク風チーズケーキを祭壇にお供えしよう。
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2021/10/12