黒河内真衣子のインスタグラム(mamekurogouchi) - 10月8日 19時57分
「私がその香りと過ごした時間でみえたのは、障子越しの光だった。築年数の古い家で、ひとりの女の人が、鏡台の前に座っている。櫛で髪を梳き、お化粧をはじめる。
肌の産毛が銀色に光っていて、皮膚は汗ですこし湿っている。乳房のあいだの汗、と、おしろいのにおいがする。おしろいやちり、細かい粒子が部屋の中で光っている。鏡ごしにみていると、その人は、女にも女方の化粧をしている男かもしれない、とも思う。
背骨のごつごつした骨張った線もみえる。こんな香りのひとが、思い人になったら、むくわれないかもしれない。刃傷沙汰になるまで、焦がれそうだとも思った。色っぽいその人への思いに動揺しながら、私は冗談めかして、合コンでモテる香りではないけれど、恋人がおもいあまっておかしくなってしまうような香りがする、と話した。
真夜中のホテルに戻ると、皮膚からは藤袴のおしろいの香り、髪から、蒸留のときの野草の体液のような香りがまとわりついていて、体は疲労しているから、早く眠りたいのに、胸のうちがやたらとざわざわしていて、香りにたぶらかされていた。眠ろうと横になるのに、興奮したまま、そのまま明け方まで、眠ることができなかった。」
小説家 朝吹真理子
Mariko Asabuki
GINZA「信号旗K」より転載
@mariko_asabuki
@ginza magazine
全文章は、GINZA 5月号 「信号機K 朝吹真理子の訪問記」でお読みいただけます。
Photography @bennie_gay
#mamekurogouchi
#lichenmamekurogouchi
[BIHAKUEN]UVシールド(UVShield)
>> 飲む日焼け止め!「UVシールド」を購入する
890
2
2023/10/8