（続き）祖母はその後､3度お見合いをして､3度目の相手の祖父と結婚をした｡お見合いの席で祖父が大層お洒落で高そうなｵｰﾊﾞ（という表現を祖母は使ったが､今で言うところのｺｰﾄだろうか）を着ていたことが､祖母が｢この人はお金持ちですごくお洒落な人だな｡結婚してもいいな｡｣と思う決め手になったそうだ｡そのｵｰﾊﾞは､今の価格で30万ほどだろうと祖母は言っていた｡なんと後から聞いてみると､そのｵｰﾊﾞは､祖父の友人の中村君からの借り物だったらしい｡本人はしゃれっ気も何もない､いつもﾎﾞﾛﾎﾞﾛの服を着ているあんまり賢くない旦那だったと､祖母は祖父をあまりよく言わない｡きっと､70年前､中村君のｵｰﾊﾞに騙されたことを根にもっているのだろう｡しかし中村君のｵｰﾊﾞがなければ､私はこうしてこの世にいないわけだ｡自分としては､中村君GJと言わざるを得ない｡祖母は､箪笥から､くしゃくしゃの白黒写真を出してきた｡｢ほら､このひと｡内緒やよ｡｣と言って､若旦那の写真を見せてくれた｡小さい､手のひらに乗るような写真だった｡後生大事に70年､誰にも内緒でその写真を持っていたのだろうか｡｢くまみたいで､別にかっこよくもない人だったけどね｣と､祖母は言った｡その写真は白ぼけしていて､傷だらけで､はっきり言って､まったく顔がわからなかった｡けれども祖母はその写真に､鮮明に当時の若旦那の顔が見えているのだろう｡若旦那はつい最近亡くなったそうだ｡｢老い先短い年寄りに恥なんぞないし､もうみｰんな死んでしもうて､時効やちゃ｡｣と祖母は言い､若かりし日の恋の話を語った｡おばあちゃん､私がその話､覚えておくよ｡私は言って､祖母の和室を後にした｡人は誰でも､誰かにとってなんらかの役目を負っている｡祖母､孫､母､先輩､上司､恋人､友人､同僚､兄弟､先生･･･｡私たちは､自分にとってその人が担っている役目でしか､その人を見ることはできない｡そしてしばしば､自分以外のために他人が負う役目を否定する｡｢家族と仕事とどっちが大事なの｣｢男友達の約束と私との約束どっちが大事なの｣｢お母さんは私のこと､ちっとも大事にしてないじゃん｣｢あいつは結局､友達よりも彼氏優先だよね｣そうやって私たちは､人の気持ちの大きさを､いつだって天秤にかけたがる｡けれど､自分だけのために負う役目に､誰かを縛り付けたいと思う執着なんぞ愛じゃない｡祖母の話を聞いて､負うべき役目を多く持つ人の歩んできた人生の豊かさを知ることで､自分が誰かを縛り付けたくなるﾁﾝｹな気持ちが､すっと消えたような気がした｡（おわり） * * * #おうちごはん #うちごはん #晩ごはん #夜ごはん #夕食 #料理 #手料理 #食卓 #自炊 #家庭料理 #料理好きな人と繋がりたい #暮らし #テーブルコーディネート #おうちごはんLover #food #japanesefood #foodpic #タベリー #和食 #一汁一菜 #今日の晩御飯 #手抜きごはん

yucali.mさん(@yucali.m)が投稿した動画 - 2018/12/08 20:53:08