小林エリカのインスタグラム(erikakobayashiek) - 8月15日 07時11分

私の父16歳、1945年8月15日の日記

昭和二十年八月十五日　水曜日　晴
　朝九時頃から仕事があった。十二時十五分前重要なる放送があるといふので全員朝礼の一に集合。時報の後放送有り。＝が悪くて少しも解らない。何か詔書みたいな物を読んでいるらしいと思った。想像通り露国に戦宣の大詔が下つたのだらうと思って頑張るぞ！と手を握りしめた。處が「戦局我に利あらず」とか「勝算既に難し」とか云ふ声が波の様に聞こえる。詔書らしいものの前後に「君が代」の奏楽があったがスピーカの調子か處々切れ切れになつた。音が聞こえなくなると同時に気が遠くなる様な気がして思はずフラフラと二三歩よろめいた。講和といふ事がほぼ確実になって来た。はつきりした情報を集め次第通達すると云ふ事になつて解散。待望の三時になつたのでニュースを聞かうと寮の事務に泉のタンチと一緒に行つた。四高生が一人「今終つた處だ」と云つて彼の聞いた處を聞かせて呉れた。ポツダム宣言とか何とか云ふのを承認して講和といふ事になつた。今日はお盆で慰霊祭りの為五時終業といふ事になつて居たがこの報道の通はると共に四時頃には皆作業をやめて三々五々集まって憶測に余念がない。五時終礼の際係から「二日間謹慎等々七ヶ条が伝へられた。
一、二日間謹慎
一、外出禁止
一、言動に注意すること
一、工場防衛に細心の注意を払ふこと
一、右は岩井隊（工場勤務の兵隊）にまかすこと
　である。
　講和は真実だ！真だ！嗚呼泣いても泣き切れない。死ぬにも死ねない。夕食を喰ひ力無く寮に帰ってボヤッとして六時半迄寝転んで居た。

＋

　敗戦のその日、父は富山県井波の飛行機工場にいた。父、十六歳、旧制第四高等学校一年生。父の仕事は、最速の軍偵察機新司偵の機体に、エンジンを取りつける作業だった。エンジンは偶然にもこれまで金沢一中の勤労動員で作らされていた代物だった。
　飛行機は月産に六十台。しかし、そのうち半分は試験飛行でパイロットもろとも墜落しその大方は死んだという。
　父の父、つまり祖父は、金沢に祖母、父、父の弟、の家族と遺言状を残し、第十七師団軍医としてラバウルにいた。
　父司は十六歳、祖父滋は四十七歳、祖母冨美子は三十八歳、父の弟昭は九歳。

「親愛なるキティーたちへ」（リトルモア刊）Your Dear Kitty,より

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