猫沢エミのインスタグラム(necozawaemi) - 10月9日 02時21分

フランスへ嫁いでからずいぶんと長い時間が経った。実際にはどのくらい経ったのか、もうさだかではないほどに。
一昨年、画家の夫が出逢ったころの優しい顔をしたまま亡くなり、異国とはもう呼べなくなってしまったこの国に、ひとり白髪の老婆が遺された。それがこの私だった。
風習もなにもかも、もう生まれた国のそれらしきは忘れてしまったのかと思いきや、いざ長旅の末に帰ってきてみれば血の記憶とは大したもので、ほんの短い時間のうちに、日本人の立派な婆さまへと姿を変えた。
やることも特にない、誰に求められるでもないがまだ生きてはいる。それにからだも動くのだし…と始めたのがこの、小さな呑み屋だ。食事も出せば、酒も出す。気が向けばフランス仕込みのデザートも出す正体不明の食処は、正体不明のバタくさい婆がやるにはなかなか似合いの場所となった。
（…という老後の妄想から生まれた物語の書き出し）

#ユピ坊 #猫沢夢

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