平泉春奈のインスタグラム(hiraizumiharuna0204) - 5月30日 20時09分


『紫陽花が咲く頃』


"先生、お元気ですか？また、紫陽花が咲く季節がやってきましたね。あの日、先生が私に言ってくれた言葉は今でも大切な宝物です。"
 
＊

1年前の今頃、私は女子特有の人間関係のもつれにより、クラスの中で静かに孤立していた。クラスメイトの好きな男子に告白されたことが原因だった。

理不尽な水面下での攻撃。仲の良かった友人のよそよそしい態度。SNSで書き込まれる悪意あるコメント。それは、退屈だけど穏やかで平和な日常の崩壊を意味していた。

私は学校に行くのが怖くなり、いつしかそんな自分の弱さを責めるようになった。
悪いのは弱い私。だってきっと、私なんかよりもっと苦しんでいる人は世の中に五万といる。もっと強くならなければ。

私は自分を追い詰め、自分で自分の行き場をなくしていた。そんな私の異変に、誰よりも早く気付いたのが先生だった。
 
「辛さは誰かと比べるものじゃない。きみが感じることが全てなんだよ。大切なのは自分の心に耳を傾けることだ。きみが今、一番望んでいることはなに？」
 
湿った雨と紫陽花の甘い香りに包まれながら
私は初めて誰かの前で大声で泣いた。
先生は泣き崩れる私を、ずっと優しく抱きしめてくれていた。

＊

先生が別の学校に異動して3ヶ月。
前より学校に行くことが苦ではなくなった。でも心の中にポッカリ空いた穴はどうしても埋まらない。先生じゃなきゃ、埋めることはできないのだと気付いてしまった。


"先生、会いたいです。会えないのならせめて……あなたの記憶の中にずっといさせてください。紫陽花を見たら、ほんの少しでいいから私を思い出してください。先生、大好きです。ずっと、ずっと……"

 
きっと私はこれからも、毎年この季節になると先生を思い出すのだろう。湿った甘い香りと共に、胸にわずかな痛みを残して。


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紫陽花の季節がやってきましたね。
2冊目書籍『今、この世界であなたと2人』の収録作品を文章を少し加筆して公開しました！（本を買ってくださった方はどこが変わったか気付いたかな？）

紫陽花をふんだんに描いたこちらの作品、元にした万葉集の歌はこちらです↓

わが形見（かたみ）　
見つつ偲はせ　あらたまの　
年の緒長く　我れも偲はむ

 （笠郎女）

【訳】
私ゆかりの物を見ながら私のことをどうか想ってくださいね。私も何年でもいつまででもあなたのことをお慕いしていますから。


みんなは辛さを他人と比べてませんか？自分が辛いと感じることは、誰がなんと言おうと辛いんです。こんなことくらいで…なんて言って我慢しちゃダメですよ。ちゃんと自分自身の心の声に耳を傾けてね。



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