岩下尚史のインスタグラム(iwashita_hisafumi) - 6月25日 23時57分

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番町の旦那に紀尾井町福田家へ招かれ、魯山人による名品盡しの美餐を頂戴しけり。
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料理はもちろん魯山人ゑがく雀圖の掛軸はじめ室禮萬端、東都ならではの瀟洒な風韻に遊神すれば、まさに壽命の舒ぶる心地す。料理長はじめ玄關並びに座敷係の應接行き届きてベタ付かず、さらさらと品よく上等なり。
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四代目當主福田貴之氏は相變らず美丈夫にて、此のむづかしき世の中に家業を繼がれ、ぢみちに魯山人流儀の会席の看板を立派に守り、新風を秘めて進まるゝは勁し、頼もし。
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さて、次々に持ち出さる魯山人の器は堂々として、わけても織部鮎圖俎皿に颯と筆描されし香魚の眼の澄んで勇ましきは、我が棲む青梅の山里を流るゝ多摩川に泳ぐ鮎にさも似たり。
造りを取り分けたる黃瀬戸四方皿もあはれにて、したぢを浸す染付小皿に描かれたる蟹の繪はかはゆし。
などなど魯山人の陶磁器のいづれも面白きなかに、留椀に持ち出されし輪島の慶塚の手になる菊羊齒蒔繪の端正なる姿はめでたく、絢爛たる会席を引き締めたる觀ありとおぼゆ、絶妙なり。
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さうした器に供さる料理鹽梅に輕佻な作爲なく、心ゆかしき工夫あり。
先付の壺抜き雲丹に東京檸檬ジュレ、御椀は丸仕立にて金翅鱶鰭を合はせ、とりわけ鮎の鹽燒に敷かれたトマトソースは旨し。みづみづしき造りは齒應へ良く、青薇の湯葉巻に禪味ありて海鰻に添えし花山椒の香に仙味あり。金目鯛煮付に新生姜の利いた飯は嬉しく、蟹出汁の田舎味噌仕立は心にくし。
香の物はコリンキー糠漬、白瓜雷干、胡瓜煮澤なり。その三種を齧りつゝ、なるほど、川端康成は申すに及ばず、政財界の昭和の貴顯紳士たちを惹き付け通はせた理由はここにありと、嘆服しつゝ箸を置きぬ。
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さて、錦上に花を添へんと番町の旦那の呼ばれたる神樂坂の万り、舞子の兩女史とは、實に二十年ぶりの再會にてありけるに、むしろ﨟闌けて麗しくなりぬ、聴けば、万り女史は現役の藝妓乍ら八仙といふ屋號の貸席を開きしとやら、おそらくは待合みたやうなものなるか、興あり。
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美撰と清談に心ゆくまで滿足してお開きとなり、皆皆に見送られて車に乗り、梅雨の晴れ間の紀尾井町を跡にしけり。
つくづく思ふやう、番町の旦那ほど我にとりて良き人はなし。
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