林信行のインスタグラム(nobihaya) - 10月30日 02時53分
Bezoar
| Charlotte Dumas
Ginza Maison Hermès Le Forum
Bezoarとは体内にできた石のような塊、結石のこと。
自分に備わった自然の一部でありながら、ときには自らを死に追いやることもある。
(野生の馬などにこれができると、ときには命を奪うことにもなる)。
古い伝承の中ではお守りや神秘的な想像と結びつくこともあったという。
なんだか、2020年という年のできごとと、どこか通じるところがある。
銀座メゾンエルメスのLe Forumで今年いっぱい(12月29日まで)開催中のオランダのアーティスト、シャルロット・デュマの「Bezoar」と題された展覧会は、彼女が最近撮った3つの映像作品を中心とした展覧会だが、その中には今年撮った映像もある。
現代社会における動物と人の関係性をテーマに、20年にわたり、騎馬隊の馬や救助犬など、人間と密接な関係を築いている動物たちを被写体としたポートレイト作品を発表してきたというデュマ。2014年からは日本を訪問し、北海道、長野、宮崎、与那国島など全国8ヶ所を巡り、現存する在来馬を撮影しているらしい。
会場にはデュマが撮った馬や少女の作品に加え、日本で出土した埴輪やヨーロッパの木馬も置かれているが、これは魂というものを塊にしたこれらをデュマがBezoarとして見立てたからのようだ。
会場にはシャルロット・デュマのこんな言葉が掲げられていた:
思うに、ベゾアールとは水分の不足、すなわち死に直結しているのだろう。
その証拠にパリで目にしたベゾアールは大きく、その重さに耐え、生き延びた馬はいない。
ベゾアールは神秘的なオーラを放っている。その表面は惑星にも似て
それ故、動物の腹の中からやって来たのに、宇宙からやって来たようにも思われる。
これは、石を抱えていた動物が命懸けでこしらえた生涯の作品であり、抵抗の証でもある。
命とはかくも無常であることを、想起せざるを得ない。
エルメスというブランドの誕生とも縁深い「馬」を、こんな視点で人と結びつけたチャルロット・デュマ。まさにエルメス2020年の最後の展覧会を飾るのにふさわしいアーティストだったように感じた。
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2020/10/30