平泉春奈のインスタグラム(hiraizumiharuna0204) - 8月18日 20時05分
『きみがくれた、最後の夏』
「先輩。浴衣……綺麗っすね」
「ありがと」
「その、なんで……今日は来てくれたんですか?」
「え?」
「や、だって先輩、俺の誘いなんて絶対断ると思ってました。しかも浴衣まで着てくれるとか……これ夢かな」
「なによ、嫌なわけ?」
「嫌なわけないっす!!!!ただあまりに上手くいき過ぎで、夢か幻か、はたまたドッキリではあるまいかと」
「ふふ……なんできみの誘いに乗ったか、知りたい?」
「はい」
「……ある孤独な女子高生の話よ。彼女はね、表向きは友達が多かったけど、誰にも自分の本音を言ったことがなかった。なぜなら彼女は、誰のことも心から信じてなかったから」
「……え、それって」
「仲の悪い両親の元で育った彼女は、愛の存在を信じなくなった。父親は平気で他の女の人と浮気するような人だったしね。今仲良くしている人達も、いつか離れていく。誰かを愛したって裏切られるだけ。所詮人間は孤独な生き物。誰と一緒にいても、心の底ではそんな想いを隠してきた。……嫌なやつよね」
「……」
「でもね、この夏、ようやく変化が訪れたの。愛のない結婚生活はそう長く続くわけないのよね。我慢の限界を超えた母親は、ついに夫との離婚を決意。それで……彼女は母と2人で生まれ育った街を出ることになったの」
「えっ!」
「彼女は誰にも言わず、夏の間にひっそりとその街を出るはずだった。でも突然、後輩の男の子に花火しませんか?って誘われたの。……彼女はどういうわけか、最後にその彼に会いたいと思った。彼はね、彼女とは正反対の人間だった。バカみたいに真っ直ぐで全然裏表がない人。きっと両親に愛されて育ったのね。嫉妬すら……覚えた。でも本当は、そんな彼の生き方に強く憧れていたの。こんな風になれたら、もっとこの世界の美しさや優しさに、気付けたかもしれないのにって」
「……先輩」
「彼女は最後に彼に会う事で、悲しい思い出しかないその街に優しい記憶を残したいって思ったのね、きっと。……そんな、よくある安いドラマみたいな話。伝わったかな?」
「……っ」
「……泣いてるの?もしかして、可哀想だなって思った?」
「ち……違います……可哀想なのは俺ですよ」
「え?」
「大好きな人が俺の前から消えようとしてるんです。まるでもう、二度と会えない、みたいなこと言われてるんです。なんで泣いてるかって、悲しいからに決まってるじゃないですか」
「……きみは本当に素直な子だね」
「俺……すげえガキだし大人の事情とかよく分からないけど、俺は絶対、先輩に孤独な想いさせません。先輩から離れないです。先輩のこと好きだから、大好きだから……」
「ありがとう。……やっぱり最後にきみに会って良かった」
「……行っちゃうんですね」
「……うん」
「会いに行っても、いいですか?」
「いいけど……ブラジルだよ?」
「ええええええ?!!えっと……ブラジルってたしか地球の……」
「反対側。知り合いのツテがあってね。なんかせっかくだし、心機一転ってことで。……だから、無理はしないで」
「先輩……とりあえず俺、金貯めるんで、ちょっとだけ時間下さい……」
「うふふ、ありがと」
end.
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「手持ち花火のカップル」というテーマで1つ描きたいなって思って物語を書き始めたら、こんなことになりました。日常には至る所にドラマが溢れているのです。
夏ももうすぐ終わるね。みんなは夏の最後に何したい?🎆🌻🏝🎐🍉🌺👘
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2021/8/18